
世界選手権のコース、行列なし
雫石はかつてアルペンスキー世界選手権の舞台になり、そのダウンヒルコースは今も健在、今も長く、そして今はほぼ無人です。売り文句はこの一文に尽きます。岩手山の広く雪深い肩の下に、レース級の斜度と標高差720m。平日なら、山でいちばん大きな音は自分のエッジの音です。
プリンス系のリゾートなので、構成は整っていて予想どおり。麓に大きなホテル、真ん中を上がる101人乗りロープウェイ、すき間を埋める高速クワッドとペアリフト4基。客層は地元の家族連れと盛岡の週末組が中心で、長く急な圧雪コース目当ての本気のカービング勢も少し。小学生以下は無料なので、家族のリフト代の痛みも和らぎます。
難点は、雫石が根っからの圧雪バーンの山だということ。ロープはロープで、ゲートのネットワークもありません。古い記事によく出てくる雪上車はほぼ日の出観光ツアーで、唯一の本格的なパウダー商品である旧選手権コースの貸し切りは、指定平日に1グループだけ、値段は中古の軽自動車くらい。ベースのナイトライフは、ビールと熱い風呂で全部です。
広くて急な圧雪したてのコースを、誰にも邪魔されずにかっ飛ばすのが最高の一日だと思うなら、東北でここより上手にそれをかなえてくれる場所はそうありません。深いツリーラインを追いかけに来たなら、このレビューで雫石を岩手の旅にどう組み込むかを考えてみてください。
スキー場データ
主要スキー場の推定累計降雪量です。実際の数値はスキー場、標高、観測地点、シーズンによって大きく異なります。
- 標高差720m(1150m → 430m)
- 降雪量約8m
- コース比率 30% 45% 25%
- ツリーラン
- リフト券¥6,500
- リフトロープウェイ1本、クワッド1基、ペア4基
- 混雑度
- コース外滑走不可
- ナイター
- 家族向け
- コース数20
- 滑走エリア約86ha
- 雰囲気静か、景色抜群、圧雪バーン重視
コースマップ
宿泊施設
地図で見る雫石プリンスホテルはベースにあり、目の前がゲレンデなので迷わずここ。自前の温泉、レンタルとリフト券のカウンター、ファミリールーム、ビュッフェレストランに加え、長旅でありがたい乾燥室やコインランドリーもあります。豪華ではありませんが、特に小さな子ども連れには抜群に便利です。
温泉の風情を求めるなら、谷を下った温泉街も見逃せません。御所湖のほとりのつなぎ温泉にはホテル紫苑のような大型ホテルや、より伝統的な愛真館があります。少し南の鶯宿温泉には、露天風呂で知られるホテル森の風鶯宿。どちらもリフトまで車で約30分なので、自分の足があったほうがいいでしょう。
飲食店の選択肢や夜遊びが欲しいなら、盛岡が次善の策。駅周辺にビジネスホテルが集まり、車かホテルのシャトルで約40分です。便利さと引き換えにバリエーションが手に入り、滑ったあとのわんこそばや盛岡冷麺が通勤の手間を帳消しにしてくれます。迷ったらリゾート・村・街の泊まり方ガイドをどうぞ。
パウダーとコース
数字は本州としては立派です。ダウンヒルコースは1,150mから430mまで下り、その標高差720mに86ha、20コースが広がります。初級6、中級9、上級5。ダウンヒルコース自体は約2.6kmで公式には中級、最大斜度24度と、このあたりでも指折りのロングクルージングコースです。本当の歯ごたえは上級の下部ダウンヒル斜面とスラロームバーンで、それぞれ30度と33度まで立ち上がり、圧雪直後のコーデュロイでもかなり本気の斜面に感じます。
リフト構成はシンプル。ロープウェイはベースから約930m上がる山の大黒柱で、寒い日は特に、風にさらされるリフトより密閉キャビンがありがたい。もう1本の主力は約1.4kmの雫石高速クワッド。ペアリフト4基(プリンスロマンス、ビギナーロマンス、サンシャイン、パラダイス)が下部とサイドの斜面をカバーします。たいていはクワッドとロープウェイを回しても、行列らしい行列はありません。
雪質は典型的な内陸東北。冷たい空気のおかげで軽く乾いた雪が降り、圧雪バーンは午後までエッジがよく効きます。ただ下部は国内基準では標高が低いので、暖かい日やシーズン終盤は下3分の1が緩み、上部はパリッとしたまま。いちばんいい滑りは、急な上部斜面がもっとも硬く速い午前中に。
パウダーハンターは現実的に。場内のツリーランは限られ、境界はロープで囲まれ、くぐればパトロールにリフト券を没収されます。夜に降った翌朝、いちばんやわらかい雪は広いコースの端や風を避けた地形の膨らみにありますが、週末はすぐに滑られてしまいます。視界の悪い荒れた日は、吹きさらしの上部より下部の林のほうが凹凸がわかるので、晴れるまで下でペアリフトを回しましょう。
雪上車には二つの顔があります。ほとんどの日は、早朝にスキー場の上から小高倉山の山頂まで日の出を見に行くツアーで、滑って下ることもできますが、パウダーセッションというより絶景ツアー。本気版は、1月中旬から2月の指定平日だけのプレミアムパッケージで、最大8人の1グループが元世界選手権の非圧雪コースを貸し切り、パトロールが同行して雪を読んでくれます。予約は2週間以上前までに電話で、ホテル1泊とセット、値段は高級品並み。プランBではなく、特別な日のぜいたくと考えましょう。
アクセス
雫石駅は秋田新幹線の駅で、東京から3時間弱。ゲレンデにいちばん近い駅です。乗る列車が停まらないなら、車で約40分の盛岡が大きな拠点になります。雫石プリンスホテルの宿泊客は無料シャトルバスを利用できますが、便数が限られ週末前後は埋まるので、出発前に時刻表を確認して席を予約しておきましょう。
最寄り空港はいわて花巻空港で、車で約1時間。盛岡からの運転は簡単で、雫石方面へ西に向かい、プリンスの案内に従って上るだけです。除雪はしっかりされていますが、スタッドレスタイヤは必須で、強風時は最後の区間で吹きだまりができることがあります。
近くのスキー場と組み合わせたり、つなぎ温泉や鶯宿温泉に泊まったりするなら車がいちばん。車がないとシャトルの時間に縛られます。電車、バス、レンタカーの比較は交通ガイドで。
どんな人に向いている?
- 初めての人良い
- パウダー狙い良い
- 滑らない人いまひとつ
- 予算重視まずまず
- アクセスのしやすさいまひとつ
雫石は、混雑なしで長く急な圧雪コースを滑りたい、滑れる中級者や脚のあるカービング好きにぴったり。レーサーや元レーサーはダウンヒルコースを楽しめます。小学生以下はリフト券無料、ホテルのすぐ下にやさしい初心者ゾーン、混む日は別にキッズ用スノーパークもあるので、家族連れにもおすすめです。
パウダー、ツリー、サイドカントリーを軸に旅を組み立てている人には向きません。そういう人は近くを拠点にして、大雪の合間の圧雪デーに雫石を使いましょう。パークライダーには物足りないはず。グループに合う山がまだ決まっていないなら、スキー場検索で手早く絞り込めます。
グルメとアフタースキー
ランチはベースのレストランとホテルで。カレーライス、ラーメン、豚丼、唐揚げとゲレンデ飯の定番がそろい、値段は良心的、提供も早く、コーヒーもなかなか。山の上にはあまりないので、ランチはベース前提で計画しましょう。
夜は静か。ほとんどの宿泊客はホテルのビュッフェで食べ、風呂に浸かって一日を終えます。もっと楽しみたいなら、居酒屋、焼肉、名物の冷麺がそろう盛岡へ。地元の人は近くの小岩井エリアの牧場のソフトクリームを、冬でも推しています。
Japow Travelのアドバイス
出かける前のちょっとした実用メモです。
シーズンと営業時間
シーズンは例年12月下旬から3月下旬まで。ロープウェイとリフトは8:30に動き始め、16:30か日没までに終わります。ナイターはありません。夜に滑りたいなら、隣の岩手高原が冬の大半はナイター営業しています。
チケット
大人1日券は¥6,500で、年末年始は少し上がります。小学生以下は無料ですが、窓口で無料券を受け取る必要があります。
天候と雪
厳冬期は冷たく乾いた雪。大荒れの日は強風で上部のリフトが止まることがあるので、下部で滑るプランBを用意しておきましょう。
組み合わせたい近隣スキー場
岩手高原は車ですぐで、ナイターにぴったり。網張温泉は同じ山でより自然な地形が楽しめます。北の安比高原は規模もバリエーションも上で、ツリーランなら下倉スキー場や八幡平リゾートがおすすめ。県境を越えた秋田のたざわ湖スキー場は、同じ新幹線沿線で景色のいい日帰り先です。エリアで長めの旅を計画しているなら、北東北周遊ルートでそれらをつなげます。
総評:誰もいないレースコース
雫石はパウダーリゾートではなく、そう装うこともありません。その代わりにあるのは貴重なもの。世界選手権の血統を持つ長く急で完璧な圧雪コース、便利なベースのホテル、そしてほぼ行列なし。ツリーランの得意な近所のスキー場と組み合わせれば、バランスのいい岩手の旅に。ここだけ滑れば、人生最高のカービングの脚を手に入れて帰れるかもしれません。
